新型コロナウイルスの抗体検査、“今は”お勧めしません
蒸し暑い日々が続きますが、ようやく梅雨明けとなりそうですね。
ただ、梅雨が明けてもマスク着用の日々は続きます。熱中症にはくれぐれもお気を付け下さい。
さて、最近の新型コロナウイルスの状況についてですが、皆さんもご周知の通り、福岡を含め全国的に新型コロナウイルス感染の陽性者数は増加傾向となっております。日々メディアから報告される感染者情報に不安を感じている方も多くいらっしゃることと推察します。
今回は、前回のブログに続いて、「新型コロナウイルスの抗体検査」の続報に関して報告させて頂いたうえで、その後に、“今はどのように新型コロナウイルスに対応していくべきか”に関して言及したいと思います。
まず、当院にて行った抗体検査の続報ですが、
6月5日から7月18日の6週間で行った抗体検査の陽性率は4.8%でした。
当院で抗体検査を受けられた方の約2割は、2月から5月の間に自覚症状のあった方ですので、当然様々なバイアスがあり、厚生労働省の行った抗体検査の母集団とは異なります。
よって抗体の陽性率は高いですが、これは決して福岡で罹患した方が多いという意味ではありませんので、ご注意ください。
全体的な印象から言えることとしては、3月から5月にかけて発熱、風邪症状、さらには味覚障害や臭覚障害があった方は、明らかに陽性の割合が多いです。あと、もう一つ大事な点は、周囲に同様の症状の方がいた方は陽性率が高く、逆に周囲に同様の症状の方がいなかった方はほとんど陽性者がいませんでした。やはり、新型コロナウイルス感染症か否かを判断するうえで、周囲に同様の症状の方がいるかどうかという点は重要なのかと感じています。
また、新型コロナウイルスの抗体についてですが、最近、新型コロナウイルス感染症は抗体が早い段階で減少していく人が多いという報告や、数か月後には抗体が消失してしまう人もいるという話が取り上げられるようになってきました。これについては、初めに中国で報告があった際には、そもそも使用している抗体検査の手法に問題点もあり、信憑性はいかがなものかと思っていましたが、最近は欧州でも精度の高い抗体検査を使用した上での報告も出てきており、それによると抗体が数か月で減少してくる人が多いようですので、どうやら抗体が減少してくるということや、人によっては消失するというのも事実と考えるべきかと思います。
そうなると、“既に新型コロナウイルスに感染したものの幸い無事回復し、抗体も出来てもう今後は大丈夫かな、と思っていたのに、抗体が消えてしまうなら意味がないのでは、、”と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、一度抗体を持ったことは決して無駄ではありません。たとえ抗体が減少したり消失したとしても、免疫というのは記憶しているのです。
なので、新型コロナウイルスに再度罹患しにくいとまでは言えるかどうかは何とも言えませんが、もし罹っても重症化するリスクは低下する可能性が高いと思われます。
無事回復したこと・免疫に記憶されたことを前向きに考えましょう。
以上を踏まえた上で、最近までの知見を振り返ってみても確信することですが、
新型コロナウイルスはやはりそう簡単に解決できる単純なウイルスではありません。
勿論、このウイルスに罹ること自体を防ぐことができれば一番良いのですが、現在の感染拡大傾向の現状を見る限り、罹る時は罹ると考えざるを得ません。なので、今後、特に重要になってくるのは、いかに重症化を防ぎ、死者数を減らすかという点に尽きると思います。
そして、新型コロナウイルス感染に対する最終目標は、やはりインフルエンザのように、ある程度ワクチンで防御を行いながら、世界中の人が徐々に免疫を持っていき、感染がコントロールできる範疇の感染症にもっていく、ということではないでしょうか。
再び当院での抗体検査の話に戻りますが、6月から7月にかけて当院では300例弱の抗体検査を行ってきました。この抗体検査の意味は、基本的には第一波の5月頃までに感染したかどうかの判断です。ただ、上記の話を踏まえると、実は新型コロナウイルスに一度罹ったにも関わらず抗体が減少もしくは消失し、抗体検査で陰性になった人もいるのかもしれません。
また、最近お問い合わせを頂く方で、PCRが受けられないから抗体検査を受けたいという方が目立ちます。抗体検査はあくまでも過去の感染を確認するには適している検査ですが、現在の感染を否定する検査としてはほぼ役に立たない検査です。
少し前に関東で舞台クラスターが発生したという報道がありましたよね。ある役者さんが、自覚症状があるにも関わらず抗体検査が陰性だったから大丈夫と判断して舞台を続けていたという話です。これは非常に危険な勘違いです。
(混同されてしまう方もいらっしゃるようなので、今一度申し上げたいと思います。
「PCR検査・抗原検査」と「抗体検査」は全く意義目的が違うものなのです。参照:6月8日のブログ)
では、今後、抗体検査についてはどう考えればよいのでしょうか。
私は、今は積極的には検査をする必要がない状況だと考えています。
なぜなら、最近、福岡に関しても再び新型コロナウイルスのPCR陽性者数が増加傾向にあるからです。元々、当院で行ってきたロシュ社製の抗体検査は、基本的には過去の感染を調べるものですが、現在の感染でも陽性になることがあります。そのため、再び感染が拡大するこの状況では、検査の意義が薄れてしまうのです。
よって、私は、今は積極的には検査をする必要がない状況だと考えています。
(現在の感染の波が再び収まった時には、再び抗体検査を積極的にやるべきだと考えていますが。)
次に、“今はどのように新型コロナウイルスに対応していくべきか”について、私なりの意見を述べたいと思います。
まずは、自分が発熱や風邪症状を認めるようになった場合です。
何よりも重要なことは、人との接触を可能な限り避け、会社や学校は休むことです。
微熱、軽い風邪症状のみであれば、1-2日間は自宅で様子を見てよいと思います。
高熱や我慢するのが辛い程度の症状がある場合は、自治体の相談センターもしくはクリニックに電話で相談してください。
問題は“いつまで会社や学校を休むか”という点です。
基本的には、症状が改善した後、最低数日間は休むべきです。一般的にウイルス感染は症状改善して48-72時間経過すると感染力が非常に弱まると考えられています。新型コロナウイルスはまだ不明な点が多いことを踏まえると、可能であれば症状改善後1週間程度休むのが理想だとは思いますが、全ての皆さんがそうはいかないでしょうし、それはケースバイケースだと思います。
次に、最近、お電話でお問い合わせが多い
「つい最近、新型コロナウイルス感染者と接し、今は無症状だけど、どうしたら良いか?」というご相談についてです。
勿論、保健所が濃厚接触者として判断してくれればPCRを受けることができるので良いのですが、これまた問題なのが保健所の濃厚接触者の定義が徐々に狭くなってきているということです。そのため、無症状の場合、実際は結構近くで新型コロナウイルス感染者と接したのにPCRは受けられない、という事態が多発しているようです。
自費診療で受けられる病院もありますが、最低2-3万円かかる上に、実際はごく一部のクリニックでしか行っておらず、現実的にはなかなか受けることが困難です。
(ただ、これは国の対策に問題があるので、私もいつも不満に思っています。「with コロナ」と言って社会活動を継続していくのであれば、必要に応じてPCRを保険診療で受けられるようにするべきですよね。)
では、実際、こういう場合はどのように行動すれば良いのでしょうか。
可能であれば、新型コロナウイルス感染者と接触した日から1週間自宅療養するべきです。新型コロナウイルスの潜伏期間ですが、最長2週間あるかもしれないという報告もありますが、実際ほとんどの方が1週間以内と考えられています。
1週間の自宅療養中に何らかの症状が出た場合は、保険診療でPCR(クリニックからPCRセンターに紹介)が受けられます。1週間の自宅療養中に症状がでない場合は、通常通り出勤もしくは通学して良いと思います。もし、この時点で「新型コロナウイルスの無症状感染者」であったとしても、感染対策を十分に行っていれば、無症状の感染者からは広がりにくいという最近の知見から考えれば、こういった状況では必ずしも休養する必要はないと私は思います。
勿論、理想だけ言えば、接触した日から2週間の自宅療養がより望ましいと思いますが、そうなると今後多くの会社が休業することになり、学校も休校になる可能性が高く、結果的に社会が破綻してしまうのではないでしょうか。
あくまでも、このコロナ感染は長期戦になります。この状況が数年間持続したとしても社会を継続できる対応をとっていくべきだと私は考えます。
最後に、7月末の時点での福岡の感染状況はどう考えるべきなのでしょうか。
確かに、7月末時点での「一日当たりのPCR陽性者数」は3-4月の第一波の時よりも多くなり、さらに増加傾向です。では、3-4月の時より「本当のコロナ感染者数」は多いのでしょうか。私はそんなことはないと考えます。理由は以下の通りです。
福岡において、4月までは保健所でしかPCRはできませんでした。さらに言えば、「肺炎になっている人」もしくは「濃厚接触者」以外は、PCR検査はほぼ拒否されていました。
しかし、5月からはPCRセンターでのドライブスルー検査が始まり、現在のPCR検査の8-9割はPCRセンターで行っています。そして、PCRセンターであれば、少しでも疑わしい風邪症状があれば、保険診療でPCRを受けられるようになりました。(保健所のPCRが受けられる基準は相変わらずで、実際はほとんどPCRをやってくれないようですが。)
つまり、単純に検査数が増えたということが事実で、3-4月と現在では全く検査体制が違うのです。もし現在の検査体制で3-4月もPCRを行っていれば、PCR陽性者数は桁違いに多かったはずです。そう考えると、3-4月と比較すると、現在の新型コロナウイルス感染者数は確実に少ないと考えられるのです。
では、福岡において感染拡大はコントロールできているのでしょうか。
これはまだ現時点では判断できません。
このままPCR陽性者数が右肩上がりで増加する場合は、コントロールできていないと考えざるを得ません。その場合は、どこかの段階でまた社会活動の制限が必要になる可能性があります。
逆に、現在のPCR陽性者数がほぼ横ばいになってくると、これは感染拡大がある程度コントロールできていると考えて良いのではと思います。その場合は今行っている対応が決して悪くないということでしょう。
これはしばらく状況を見てみないと分かりませんが、私自身、後者を願っています。
以上が、「新型コロナウイルスの抗体検査」の続報とご報告、そして、“今はどのように新型コロナウイルスに対応していくべきか”の私なりの見解です。
全国で感染が再拡大している中、ご不安な方が多いと思います。
感染がご心配な方に関しても可能な限り電話相談を受け付けております。
ご心配ご不安なことがあれば、ぜひご相談ください。