福岡での新型コロナウイルス感染症の現状について
開院して約半年が経過しました。
幸いスタッフにも恵まれ、多くの関係者の方々からのご支援も頂き、お蔭様でようやく診療に専念できるようになってきました。
そんな中、新型コロナウイルス感染症という大きな社会問題が発生しました。
この世界的流行は自分の医師人生において当然前例のない事態で、おそらく今後も経験することのないレベルの事態だと思われます。
世間では、診療所の開業医は、発熱や風邪症状の患者さんはできるだけ診ないようにして、新型コロナの診療にほとんど関わっていない、と思っている方も多いようです。
確かに、感染症指定病院で勤務されている医療従事者を含め、新型コロナウイルス受け入れの最前線で闘っている方々には力及ばず申し訳なく、頭が上がりません。感謝しかありません。ただ、我々のような診療所の開業医にも役割はあります。
まずは、何よりもかかりつけの患者さんや地域の方々を守ることです。
そのためにも我々は、新型コロナウイルスというやっかいな相手について十分に理解し、どう対処していくべきか、ということを日々学ぶ必要があります。
これは医師として当然のことですが、いつ何時でも、様々な文献や各国のデータから情報を整理し、日々アップデートするようにしています。
連日、テレビや新聞、インターネット等、多様な媒体で、様々な情報が流れており、種々様々な専門家の方がそれぞれの立場や知見から色々な意見を言っておられます。
どの情報からも一致していることは、新型コロナウイルスは当初想定されていたよりも怖くて、やっかいなウイルスであることです。
ただ、様々な情報に惑わされ、過敏になり過ぎて、結果的に不幸な事態になっている方も多数でているのも事実です。
丁度、つい先日ですが、学会から衝撃な内容が報告されました。
ニューヨークで、新型コロナの流行拡大に伴って、心筋梗塞の入院が30-40%減少する一方、病院に到達せず検死にまわった心臓突然死と考えられる症例が4倍に上昇したということです。
これは新型コロナ流行拡大の影響で、病院を受診控えしたため心筋梗塞で突然死に至った例が激増したと考えられています。
このような例はあくまでも氷山の一角で、おそらく、他の様々な病気でも同様の事態が起こっているのは間違いないと思います。
このような事態から、私が一番お伝えしたいことは、「コロナは正しく恐れよう」ということです。安易に情報を鵜呑みにせず、情報をしっかり整理しなければいけません。
そこで今回、福岡での新型コロナウイルス感染の現状について、現状含め、大事なことをまとめることにしました。
(ただ、現時点(4月中旬頃)での状況です。これも日々変わっていく可能性がありますのでご注意ください。私からの情報もあくまでも参考にしてください。)
まず、現時点での福岡における新型コロナウイルスの本当の感染者数に関してですが、本当の感染者数は、現在の感染が確認されている数の10倍程度はいると推測されます。
海外からのデータと照らし合わせても10倍以上いるという話はテレビでも聞かれたことがあるかも知れませんが、おそらく、地域によって違う可能性はあるものの、福岡に関しては間違いないと考えています。
私は毎日、福岡市の新型コロナ陽性者一覧の情報を確認していますが、福岡で新型コロナ陽性者が急激に増加しだした3月後半より、「症状」に「肺炎」というキーワードが目立つようになりました。特に3月下旬頃からは、濃厚接触者(周囲に新型コロナに罹った患者さんがいらっしゃる方)以外の新型コロナ陽性者の症状は、ほとんど「肺炎」になっています。
これだけ見ると、みんな肺炎になってしまうのか、と勘違いしてしまいそうになりますが、それは違います。
私が4月上旬に保健所の医師とやり取りをした際、衝撃なことが分かりました。
現在(少なくとも4月上旬から中旬の段階)、福岡市の保健所では、濃厚接触者でない場合は、基本的に肺炎になっている状況の患者さんしか検査を受け付けていないとのことです。
例えば38度台の熱が5日持続していようが、肺炎がなければ検査しないとの返答です。
海外のデータで報告は色々ありますが、新型コロナウイルス感染者の肺炎になる割合は10-15%程度のものが多いようです。ただ、これも検査を多数している国でも、無症状や軽い症状の新型コロナウイルス感染患者を全例検出することはまず出来ないので、実際の感染者数の割合で考えるとせいぜい10%以下なのではと考えられます。
そうなると、福岡市において、新型コロナウイルスに罹っているにも関わらず、肺炎になっていないために検査をしてもらえない患者さんは9倍程度いることになります。
これらのことから、やはり福岡市の本当の感染者数は、現在の感染が確認されている数の10倍程度いると考えられます。
ちなみに、福岡県のデータですが、4月18日現在において、検査数6725名、陽性者数479件です。陽性率は7.1%です。
同時期の東京の陽性率は、実は30%を超えています。
つまり、この陽性率の違いから、検査がかなり制限されていると考えられる福岡より東京ではそれ以上に検査が制限されていると考えられるのです。
そう考えると、日本全体でどれだけ本当に新型コロナの感染者がいるのか、という疑念と不安を持たざるを得ません。
保健所の検査制限の是非については賛否両論あるかと思います。
私も個人的には初めは保健所の体制に不満を抱いていましたが、保健所とのやり取りで多少考えが変わりました。
保健所の方とのやり取りで、福岡市の4月中旬の現状としては、まだ本格的に軽症患者さんのホテル移動が始まっていないこともあり、感染症指定医療機関のベッドが空いておらず、肺炎になっている患者さんですら多数入院できていないという状況を知りました。
保健所の方からは、「肺炎になっている患者さんですら入院が出来ていない人がたくさんいるのに、たとえ新型コロナが強く疑われても、すぐに入院が必要とは考えにくい状態の人は感染を広げてしまうリスクも踏まえ、自宅隔離でいてもらうしかない。陽性になってもこの方針が変わる訳ではないので。」と言われました。
一医師として、保健所の方の言い分は確かに分からないでもないです。
でもそうは言っても、これだけ新型コロナが蔓延している中、もし発熱や風邪症状が続き、検査すらしてもらえないということであれば、当然患者さんは不安になりますよね。
そこで、当院ではかかりつけの患者さんは勿論、地域の患者さんからの電話相談も出来得る限り行うようにしています。何かご不安があれば、当院までお電話ください。
保健所の職員の方々は昼夜を問わず働いており、非常に過酷な労働になっているはずです。感謝しかありません。行政、医療、患者さん側それぞれの立場で力を合わせて乗り越えましょう。
ところで、少し前に埼玉県の保健所の検査制限の話が話題になりましたが、そもそもこの「検査制限」という考え方はどうなのでしょうか?
これが正しいか間違っているかは、現時点では私は正直分かりません。
ただ、おそらく大多数の方が、PCR検査の精度やタイミングの問題は別として、無症状や軽症状の人まで徹底的に検査をするという方法が良いと考えていらっしゃるのでは、と思います。
しかし、これはこれで、本当は新型コロナではない人が検査に行ったために別の新型コロナ感染者からうつってしまうリスクもあります。
(ドライブスルー検査が本格的に始まればある程度は防げるかもしれませんが。)
ただ、もし徹底的に検査を行えば、おそらく従業員が多数いる企業や病院であれば、少なくとも何人かは陽性者が出る可能性が高いと思います。
そうなれば、日本社会におけるほとんどの企業や病院が休業せざるを得ない可能性もでてきます。それも社会経済的に大変なことになりそうです。
まさにあちらを立てればこちらが立たず、です。
そう考えると、現在の日本国内のような検査制限を行う方法は、決して賛同はできませんが、もしかしたら間違いではないのかもしれません。
しかし、このような現状から、感染の実情がよく分からないまま、感染経路不明の増加になってしまっているせいで色々な弊害がでているのは事実です。
ただ、現状として諸外国より死亡者数は抑えられていることですし、この検査制限で実情を把握しないままにする方法が結果的に良かったことになる可能性もあります。
ただ、この是非に関しては結局のところ、現時点では誰も判断がつかないはずです。
これは国のブレインや行政機関に任せるしかありません。
私個人としては、つい最近ようやく話があがってきましたが、抗体検査がひとつのキーになるのではないか、と考えています。
免疫のことにそんなに詳しい立場ではないので、あまり言うと免疫の専門家に怒られるかもしれませんが、私はIgG抗体(感染の回復後にできる抗体)の検査を早急に進めてほしいと考えています。これが陽性であれば、感染して治った人は勿論、無症状や軽症で気付かないうちに治った人もはっきりするはずです。まずは医療従事者からの対象でも良いので早く調査を開始して欲しいです。
そうすれば院内感染予防も含め、医療体制を整えやすくなるはずです。
極端な話ですが、この抗体検査を徹底的に行って、国民のどのくらいの割合の人が新型コロナの抗体を持っているかを追えば、終息の目途が立つかもしれません。
最後に、最近急増している院内感染の問題について懸念していることを触れておきます。
全国各地で院内感染が多発してきていますが、今後さらに増加することは間違いないと思います。病院に限らず、職員数が何百人単位でいる組織において、この状況下で誰も新型コロナ感染者がいないという状況は考えにくいからです。
ここ最近、感染症指定医療機関以外の総合病院においても、搬送された患者さんが結果的に新型コロナ感染者だったという事態が多発しているようです。こうなってくると、いくら慎重に新型コロナ対策をしていても、院内感染が必発してしまう可能性は否定できません。
そして、基幹病院に院内感染が多発していけば、医療体制が崩壊し、結果として、新型コロナウイルスの感染による死者数だけでなく、それ以外の急病の死者数も急激に増加し、完全な医療崩壊が避けられなくなってしまいます。
少なくとも福岡市内において、現時点では基幹病院の整備ができているとは言えません。
現状としては、感染症指定医療機関や渡航者外来だけではなく、ほとんどの基幹病院が新型コロナウイルスに何らかの形で対応せざるを得なくなっているはずです。これでは近いうちに最悪な事態が起こってしまうのではないでしょうか。
きっと様々な制約もあるのでしょうが、行政主導でもっと明確な医療体制の整備を行うしかないと思います。
私は所詮クリニックの一医師に過ぎないので、なかなか行政に声を届けることはできませんが、ぜひ小川県知事や高島市長に対応をお願いしたいです。私は福岡が大好きです。一日も早くこの街に活気を戻すためにも宜しくお願いします。
文才もないのに長々と書いてしまいましたが、これが一医者からお伝えできる新型コロナの情報です。
新型コロナウイルスは非常に怖いウイルスです。
若い人でも重症化することも多数ありますし、高齢者や持病のある方は重症化するリスクが高いことは紛れもない事実です。
また、このウイルスはまだまだ分からないことが多く、現時点で我々が考えていることが、あとあと実は間違っていたということもあるかもしれません。
それでも、今は死亡者数を最小限にしながら人類が克服できるように闘っていくしかありません。時間はかかっても、必ずそのうちは終息します。
人類がこのウイルスに打ち勝つその日までみんなで頑張って、乗り越えましょう。
私も微力ながら、この街のみなさんの健康を守るお手伝いが出来るよう日々精進し、みなさんの不安に寄り添った情報を発信していきたいと思います。